第15回秀麗富嶽十二景写真コンテスト


最優秀作品 「中天の彩り」 お伊勢山 大内 京子

写真から読み込んでいますので作者の表現とは異なる場合があります。

賞名 氏名 山頂名 題名 住所 講評
最優秀賞 大内 京子 お伊勢山 中天の彩り 千葉県我孫子市  
 本年、この十五回から初めて加わった撮影地・お伊勢山からの朝富士である。まだ光当らず黒々と沈んだ前山の上、朝雲に山裾を覆われて中天に浮かぶ富士山の美しさ。そこには凄さも強烈な個性もない。だが、これこそ富士山!と誰しもが思う美しさと端麗なたたずまいがある。いまだに色づきの残る朝雲が上空にあって、富士山とみごとな調和をなしている。柔かく、しかし明確さを失わず、その中に無限の調子を含んで富士は立つ。
絶好の条件に恵まれたともいえるが、その条件を生かし切るのは至難の業である。何のてらいもなく真っすぐに富士を見据えたところに、最優秀賞につづく道があったといえる。

 
推薦 天野 昭吾 雁ヶ腹摺山 朝焼け 山梨県大月市  
 いつも思うことだが、氏のこのコンテストに賭ける情熱には及ぶ人はいない。常に十二山のほとんどを登り、そこから撮影した富士山を出品する。そして、そのどれもが一級品といえる作品なのである。十三回は最優秀賞を手中にし、本年もまた推薦をものにした。地元とはいえ、その行動力には脱帽する。
今回の推薦作品は雁ヶ腹摺山からの朝富士である。何といっても他にぬきん出た人気の山であり、この山から撮影され、出品される作品数はつねにダントツである。今回も37点の多きをかぞえたが、あまたの作品を退けて天野氏が唯一点の出品で推薦を獲得した。まさに狙いすました一作であり、氏の情熱が結晶した快心の作であった。

推薦 夏目 政俊 ハマイバ 新緑 愛知県豊橋市
 作者は昨十四回コンテストに初めて応募され、入選を果たされたが、今年は他を一気にゴボウ抜きして推薦に駆け上がった。作品もまた、それにふさわしく、まさに燃えるが如き新緑の葉むらのかなたにまだ雪深い富士山の構図は、季節にふさわしく明るさとみずみずしさに満ちている。近来あまり見られなかったさわやかな作品である。実をいうとこの撮影場所はハマイバと記してあるが、実際にはハマイバでなく、大分手前からであり、そこのところは今後注意すべき点である。構図的に見ると、中間部の翳りが少々気になるが、まず秀作であるのに間違いない。

特選 村上 敏幸 牛奥ノ雁ヶ腹摺山 朝日をあびて輝く紅葉 山梨県大月市  
 題名が少し長く、冗長に感じられる。それに紅葉というほどの色づきがないのも残念。しかし、さわやかな秋の気配が感じられる冷たさが画面に満ちている。特選の理由はそれらのところにあった。手前右方の2本の木、左方の富士山、この並べ方は中々堂に入ったものであるが、富士山の真中に一本の樹木のあるのはいただけない。折角の秋の気配がこの小さな木で大分損なわれてしまった。作者は第十二回から応募、初の入賞、それも特選である。4回目にして、というが、その間の口惜しさと、その積み重ねがここで結実したわけで、何とも目出度い。今後もたゆむことなく精進して、最高位を狙ってほしい。

特選 池田 浩樹 本社ヶ丸 薄紅の彩り 山梨県大月市  
 第十一回からの応募、5回目にして入選、しかも特選である。寒い思いをして本社ヶ丸まで登り、我慢した甲斐があったといえるだろう。特選にふさわしい朝陽に染まる霧氷が遠くの富士に対して実によく調和している。富士山の色づきがいまひとつであるのが惜しいが、そのときどきの条件でこれは致し方ないことである。清八山と異なって左からの尾根が若干下方に移るのでより霧氷がきわ立ったといえる。こうしてたゆまずに一歩一歩、山と写真の道を登るところに進歩も名誉がともなってくる。それにいままでの本社ヶ丸の富士山と一味ちがった表現であるのも喜ばしい。ぜひ次回も期待する。

特選 長谷川 
政雄
清八山 霧に明ける 山梨県大月市  
 うっすらともやのかかった富士山の夜明けは夢のようにはかなく美しい。富士の右上方に残月が懸かって、一層その感を深めているが、何となく納得できないものを感じたが、果たして多重露光によるものであったのは残念であった。納得できなかったのは月齢はともかく、残月の色が朝やけ時にそぐわなかったことであるが、本来ならば落選である。ただ、そのことは不文律として断わってなかったのはこちらの落ち度であったため、高位の入選となった。だが、以後はこのような手法は許されないことを、よく心してほしい。ネイチャフォトとは飽くまで自然のものを自然に、表現するものであることを知るべきである。

入選 帯金 晃 奈良倉山 雲海に明ける 静岡県沼津市  
 5番山頂の奈良倉山は、2番山頂の小金沢山と並んで、もっとも富士山に遠いため、撮影には不利で、仲に好作品が出ない。だが、ここで初めてすばらしい作品が応募された。
 帯金氏も第十一回からの出品で、全体としては遅い方に入るが、十二回から三期連続して入選、今回で4回目である。今回まことに惜しかったのは、この奈良倉山の作品は優に特選以上、ときとして最優秀にも位置するほどの好作であった。が、運というものはどうしようもない。今回は特別に好作品が大挙して応募があり、涙を呑まざるを得なかった。手前の雲海、中景の明け初めし山肌の彼方に富士が浮かぶ。本当に惜しかったといえる。

入選 宮 徹 扇山 白雪光る 東京都港区  
 登りやすい山は十二景中にも数あるが、扇山もそのひとつである。しかし、この山からの好作品は仲々に出ないところを見ると、案外登りにくく、撮りにくいのかも知れない。作者はこのコンテストに今回初めて応募されたのだと思うが、そうしたジンクスをはねのけて、こうしたすばらしい作品をものされた。とすると、いままでの作者は少し怠けていたのではないかと感繰りたくもなる。山頂直下にあるカラマツの梢二本を前景に薄もやに煙りぐ下界からぬきん出た富士の崇高さは例えようもなく美しい。梢をあえて小さく入れたことで中間部が広くなり、富士山の高さが増した。心にくい表現である。

入選 八巻 長子 雁ヶ腹摺山 霧氷の朝 山梨県中央市  
 これまた珍らしい作品である。あの長い林道をえんえんと歩くのは、いかに大変かは万人承知な位である。しかも雪道をたどり、雁ヶ腹摺山山頂となると気が遠くなる。そのためにこの山からの冬の展望がいままで無かったのだともいえる。作者は敢えてそれに挑んで成功した。いや、作者としては入選では不足であろう。撮るからには最優秀賞を、と考えるからである。折角の作品は難をつけるつもりはないが、もうちょっと早い時間帯にシャッターを切って欲しかった。手前の雪面に光が届かぬうちに。そうすれば樹林の梢の方のみの光が樹林を浮き出したとして、富士山もきわ立つ。折角のPLは利いていないか、露光オーバーである。

入選 大戸 康世 清八山 靄の中の一瞬 山梨県大月市  
 すでに大ベテランといってよい作者である。応募は第一回からで、通算11回、推薦・特選各1回、入選3回をかぞえる。今回は一挙2点の入賞である。作品はカッチリとまとめ上げてあり、色彩再現、情景描写も的確であるが、残念なことに富士山頂が画面中心部に置かれてしまったがために、安定感はあるが方向感と動きが失なわれてしまった。条件としては最高といえ、まことに惜しいと思う。一般的にはどうしても富士山頂や山の頂上を二分した画面中央部に置くことが良いと信じられているが、自然は生きているのであり、刻々と表情も移り変わる。安定だけで中心部に位置させるのは構図ではもっとも悪い作画法と考えたい。

入選 佐藤 知津夫 大蔵高丸 荒れる富士 山梨県大月市  
 常には優美で端麗な表現が多い大蔵高丸からの富士山。ところがここに表わされた富士山はつねに私たちが見、考える大蔵高丸からの富士山の印象をみごとにくつがえしての豪快な表現である。これは6×6判に250ミリという長焦点レンズによる拡大化をさらに引き伸しの際にプラしたと思われるが、作者の意図はそれをみごとにクリアーし、自己の考える富士の再現とした。通常、この程度の地吹雪は富士山ではいたってふつうのことであってさほどには思えないが、手前の三ツ峠山が雲一片なく静もっていることによって荒れの状態がよりきわ立ったという効果もある。構図的にも単純化され、少ない調子、色調の地味なことも逆に効果を助けている。

入選 津 秀俊 ハマイバ 秋色 山梨県大月市  
 まことに色あざやかなカエデの紅葉、それで画面の大部を囲み、左下隅に富士を配した手慣れた構図であるが、秋の感じを的確に表現している。紅葉の発色、上空にひろがる雲の状態も秋という季節を強調する手助けをしている。しかし、ちょっと問題になるのは、富士山の置かれた位置である。紅葉の枝のひろがり状態、スタンスの状況で思うようにいかないこともあろうが、ここはもう少し富士山を左方に置くべきであった。ほんの少しだけと思える左下の空が今作の引きしまった感じと不調和に力を逃してしまっている。富士山上部の枝の差し交し中心に富士山を入れこむことに苦心したためと思われるが、もうひと工夫あるべきだった。

入選 津 秀俊 岩殿山 川霧流れる 山梨県大月市  
 題名が実際にそぐわないことが、まず第一に感じられる。「川霧」という形容は通常、川面に湧き、漂よい流れるものをいう。この作者の霧はすでに上空に昇って雲となって山間を漂よっている。したがってこの場合の題名は「山あいに雲湧く上に」というようなもので欲しかった。それとは別に、印画の調子は美しく、朝の情景をみごとに再現している。たかだか634メートルの岩殿山から撮影したとは到底考えられない高度感を表わしていて、その技術の高さをもの語っている。ただ、この作画も構図的に左重りであって右方が軽いのは、富士山を中心線に寄せすぎたためで、ここはもっと左方を入れこみ、右方を切るべきであった。

入選 纐纈 麻實 百蔵山 残照の富士 岐阜県
多治見市
 
 これまた題名に難がある。富士山を撮っているのだから、富士山が画面中にあり、誰が見ても意図は明確である。よほどのことがない場合、「富士・・・」とか「・・・富士」のような題名を付けない方が有利である。この場合も「昏い残照」といったような、若干心理的なものの方が印象が強い。作品的には実に力強く、女性ながら表現力はひと一倍すぐれていることが感じられる。ただ単に美しく撮るだけが写真ではなく、また作品的にすぐれているともいえない。その点、この作品は上部への雲の入れ方、下部の影との配分はみごとで富士山そのものの位置も申し分ない。ただ、右方の雲の赤らみがちょっと弱かった。ここが黒い乱れ雲でもあったら、と惜しまれる。

入選 坂本 恒義 九鬼山 紅化粧 神奈川県
相模原市
 
 作者は第14回に初応募し、今回2度目の応募で初入選された。作風は真正面からのケレン味のないもので好感が持てる。九鬼山といえば最近、山頂付近の植林の丈がのび、非常に撮りにくくなっているので苦労されたことと思うが、富士山を大きく入れこみ、下部を省略してまとめたところがよい。ただ残念なのは、富士山がどまん中に位置してしまったことで、こうした構図は慣れないと、つい陥りやすい弊害で、ベテラン中でもしばしば見られることがある。左右の山や事物を利用して、富士山を若干中心から離れた位置に移す構図を今後は心がけられたい。「紅富士」ではなく、「紅化粧」としたところに工夫がある。また発色も題名に似合っている。

入選 橋 英子 本社ヶ丸 厳冬の華 東京都大田区  
 雪のある期、本社ヶ丸に登るのは、さぞ大変だったろうと思う。ことにそれが女性であってみれば、その苦労は倍加する。だが、高い場所に登ることによっての心の浄化はしばしば好作を呼ぶ。それはこの作品に如実に表われている。さらに横位置でなく、縦位置としたところに作者の工夫が見てとれる。というのは、横位置であれば中景の黒い樹林の尾根がさらに横にのびて大きくなり、逆に雪の付いた樹林の部分が少なくなって、中景がグンと重くなってしまう。それがこの作品のように縦位置になると、中景が少なく、手前が多くなり、全体のバランスがとれる。それともうひとつ、題名の工夫もみられ「・・・の華」とあるところもよかった。

入選 谷口 一只 牛奥ノ雁ヶ腹摺山 晩秋の朝に 埼玉県加須市  
 小金沢山同様、牛奥ノ雁ヶ腹摺山はアプローチが他の山々にくらべて、比較にならぬほど長く辛い。そこへ日の出に間に合うように登るにはなみたいていの苦労ではない。だが、それを克服して、初めて栄冠を手中にできるわけで、そのよろこびはより大きいと思う。
 右手前に3本の立ち木を置き、左奥に富士山を配した構図は類型的ではありながら、しっかりと要所が決まっていて安定感がある。難をいえば中間部がうるさいが、これは影地の土地的特徴によるので致し方ない。ただ、左手下にススキの穂のボケがあるのは今後注意すべき点である。全体のコントラストによって、秋富士のすがすがしさが生きている。

入選 大戸 康世 お伊勢山 お伊勢山の春 山梨県大月市  
 上方4分の3の面積にサクラを入れこみ、下方中心に富士山を配して典型的な日本的風景を形成した。サクラの花むら中心部の色がちょっと薄くヌケている感があるのと、サクラ全体がアウトフォーカスであることが指摘されるが、これは富士山へのピントにあまりに執着したためであろう。したがってアトピンといわれる後方焦点になってしまった。こうした場合、もう少し前方にピント合わせをし、絞りこむことで全体に合わせることができる。それと苦言をひとつ、作品を台紙に貼って出品するのは規則に反し、本来ならば入選取り消しである。さらに応募票を縦位置写真に横に貼ってある。こうした不注意は今回だけにお願いしたい。

入選 伊藤 恵子 滝子山 黎明 東京都大田区  
 うっすらとベールをかけたように朝もやが富士を覆っている。そのため厳寒の冷たいかがやきが柔らげられて、何となく暖かい感じのする朝富士となった。滝子山というとある意味では小金沢山や牛奥ノ雁ヶ腹摺山よりも辛い道中を強いられる山として有名であるが、この端正で格調高い富士山に恵まれれば、それまでの苦労はすべて報いられたような気になるだろう。たっぷりと雪もつき、風もなくおだやかな冬の朝にシャッターを切る幸せを噛みしめるときだ。そういえば今回、21人の入賞者中、5人の女性がいるが、もっともっと増えてほしい。女性でしか撮れないデリカシーあふれる作品で、この12景をさらにさらに有名にして欲しい。そう希望している。

入選 宮地 広之 高畑山 秋の夕暮れ 東京都世田谷区  
 高畑山からの夕暮れ富士であるが、全体の構図は、百蔵山からの纐纈麻實氏の「残照の富士」によく似ている。だが、黒雲は上空に少しだけあり、あとは少し色づいた全天にひろがる雲で色あいも異なる。これはやはり3月と9月のちがいもあり、そのときどきの条件に左右させられるので致し方ない。しかし、高畑山は滝子山、笹子雁ヶ腹摺山、牛奥ノ雁ヶ腹摺山とならんで撮影しにくい山として有名である。それをうっすらとした黄金色にほぼ統一した技法は買うべきものがある。でき得ればもう少し周囲を入れこんで、空部の黒雲をもっと入れた方がよかったろう。第11回から連続5回入選のベテランに期待する。

入選 橋 利延 姥子山 秋景 神奈川県相模原市  
 ややシーズンには遅かったが、作品はまさしく秋景である。紅葉の色はやや悪いが、その悪い分を新雪が埋め、全体としてさわやかな感じを演出している。雁ヶ腹摺山までは登っても、姥子山まで足をのばす人はあまりいない。そうした点でも熱心さがうかがえるのもベテランゆえであろうか。構図的は一応整ってはいるが、惜しむなくはちょっと中心部に主題がかたまりすぎた。右下と左方および左下の部分がボケと空間とで緊迫した感じが損なわれている。左方の空きはカメラポジションを右に移せばよいが、さてそのあとの右方と右下が空く、そこにもうひと工夫必要となる。だが、このことを生かして、次回はさらなる進歩をした作品を見せてくれると思う。

入選 谷口 一只 高川山 烈風に焼ける 埼玉県加須市  
 どうも似ている富士と思ったおり、今回の佐藤知津夫氏の作品「荒れる富士」と場所こそ違え、同年同月同日の撮影であった。佐藤氏は大蔵高丸、こちらは高川山である。まず題名であるが、佐藤氏のところでも書いた通り、烈風は山頂付近だけで、それに焼けていない。八合目より下は荒れていない画面中の大部分が静穏の感じであるためそぐわない。それにアップでなく、ロング描写であるため、よりその感が強い。下部の雲のあたりから切りとったくらいのアップで欲しかった。そうすれば題名どおりとなる。条件をよく捉えているが全体として見て富士山が少なく、余分な暗部が多いため損をしている。それに山頂右下がりとなっている。

入選 津 秀俊 笹子雁ヶ腹摺山 雪煙光る 山梨県大月市  
 これまた題名がなっていない。「・・・光る」というのはこうした状態ではいれない。たとえば逆光だったとすると雪煙をとおした光で光った状態となるが、横光線では現に光っていない。題名というものは写っている現象を的確に表現するもので、自分勝手な印象でことばに当てはめるものではない。そのため、事実と異なるものとなって、作品を一語で説明できなくなり、ときとして落選してしまうことがある。
 この作品もまた、画面中心線近くに山頂が置かれていて、動き、方向感といったものが見られない。また山体の大きさと画面比率、空部の空きも不適切である。もっと山体を大きく、したがって雪煙も大きくして作画を考える必要がある。

入選 松本 邦弘 倉岳山 ちぎれ雲流れる初冬の富士 埼玉県入間市  
 この場合、主題は雲であり、副題として富士山がある。したがって題名は間違いとまでいえないが冗長でありすぎ、リズムに欠ける。千切れ雲も、初冬の富士も写真でわかるので、こうした場合、細かな説明ははぶいて、「富士山上、雲流る」だけの方が簡潔となる。さらに雲が主題であるから、もっと空部を大きくとって富士山の下部を切ることが必要となる。富士山は五合目位から切ってその分、空を大きくのばす。これで上部のかくれている大きな雲と富士山との間を千切れ雲が流れるという設定ができ上がる。現象をどう受け止めて、自分が表現しようと考えたことに最適な切り取り方をするべきである。また、富士山をもっと小さく周囲を広く写してもいいだろう。

入選 山下 政明 小金沢山 五月の富士 神奈川県秦野市
 5月の富士山としては画面上での説明がない。5月といえば新緑と花にであり、空はさわやかに晴れ上がって、雲は輪画がハッキリしたものが欲しい。この作品から見ると、下方は黒木の森で、中景の山にも緑がない。富士山には辛うじて春の新雪があるが、上空は巻積雲であり、通常この雲は秋の雲である。たとえ実際にはまぎれもない春5月であっても、この場合は「秋空高し」といった方が作品からみてふさわしい。まあ、春であるから「秋空・・・」とは付けられないが、「富士山上蒼空高し」なら画面にふさわしい。その場合でも、もう少し下部の黒を切って、その分上部にのばすことが必要となる。