第14回秀麗富嶽十二景写真コンテスト


最優秀作品 「荒れる富士」 雁ヶ腹摺山 三浦 義朗

写真から読み込んでいますので作者の表現とは異なる場合があります。

賞名 氏名 山頂名 題名 住所 講評
最優秀賞 三浦 義朗 雁ヶ腹摺山 荒れる富士 埼玉県入間郡  
 題名が少々作品にそぐわないが、この場合には「烈風に明ける」か「富士黎明・風強し」という表現が良い。この条件では、快晴であるから荒れるという表現は間違いとなる。しかし、いずれにしてもすばらしい富士山である。山頂部に当たった色づきの光と前景の雲のみの単純化された画面は、これ以上の作品にはなかなか撮れまいと思わせるほどだ。左手下部に小さくとも雲の塊が欲しいが、これは無いものねだりだろう。構図・色調・品格の三者がみごと揃い踏みといったところ、なかなかに表現しにくい躍動感もまた得がたいものと言える。
推薦 小谷 哲朗 岩殿山 幽玄富士 三重県松阪市  
 前景に市街地が入ってなかなかに撮りにくい岩殿山から、このような美しい富士山が撮影できるとは、と思わず驚く。最優秀賞と甲乙つけ難いが、「幽玄富士」という題名どおり静寂の中に端座するため、やや力に欠けた点だけが惜しい。構図的にはむしろ最優秀賞よりも整っているといえ、これまたこれだけの富士山作品は以後も少ないだろうと思う。撮影者の心情が画面中に満ち満ちているかにも思える秀作である。これも数多くこの山に通った賜であり、自然からの贈りものと云えるかも知れない。
推薦 天野 昭吾 笹子
雁ヶ腹摺山
暗雲富士にかかる 山梨県大月市  
 さすが、昨年度の最優秀作者の面目躍如、といったところ。がっちりと画面に収めた富士は堂々として王者の風格がある。富士山頂上の空、手前の山体とのバランスも良く実にみごとだ。笑う富士、怒る富士、すねる富士、哀しむ富士が富士の様々相というなら、この作品はまさに怒れる富士と言ってよい。
やや惜しむらくはピントが少し甘い。PLのせいか、強風のためのブレか、あるいは引伸ばしの際のミスかとも思われる。もう一度、引伸ばした作品を見てみたいものだ。
特選 橋 利延 雁ヶ腹摺山 雲海上に聳える 神奈川県
相模原市
 
 雁ヶ腹摺山からの展望は、真木沢右岸から三ツ峠山にかけて重なり重なり、畳なわって、十二単衣とたとえられる山ひだの美しさがある。それに加えて、そのしめくくりに富士山がある、ということが売りものになっている。ところがこの作品はその山ひだから湧き昇って手前の山体を全て隠した雲海がテーマであり、富士山はその上に六合目からの山姿をのぞかせている。意表をついた雁腹の富士山、とでも言おうか。このポジションの新しい見方がまたひとつ出現した。
特選 山崎 勝孝 ハマイバ 梅雨の晴れ間 神奈川県藤沢市  
 実にさわやかな画面である。青々とした新緑に残雪の富士、何のてらいもなくただ感ずるまま無心にシャッターを切ったことが如実にわかる好作品である。作者は昨年、初めて入選されたが、それより一段と腕を上げたことがうかがえる。三段階に遠く重なり合う前景の山、そして最後に高く富士山が立つ。左方から湧き昇るガスの形が画面の動きを作り出して、初夏の表現にプラスした。画面のバランスとして、右方を少し切ると、右手のガスが減ってずっと良くなる。
特選 筒井 章 清八山 紅に染まる 静岡県伊東市  
 清八山からの富士山は、カメラポジションが少ない上、明るくなってしまうと下部の林道が作画の邪魔をするのでなかなかに上手くいかない。この作品は手前の樹枝に付いた霧氷でうまくそれを隠している。この手法は二重に役に立って左奥に位置させた富士山と霧氷だけの画面単純化となり、それに朝の光が花を添えた。少々気になるのは手前の霧氷が少しピントが甘いことと題名(修正済)に「紅彩・・・」(べにさい)とルビが振ってあるが、もっと文法、読みを勉強する必要がある。
入選 天野 昭吾 雁ヶ腹摺山 光射す 山梨県大月市  
 最優秀賞の三浦氏の作品と同様の構図取りであるが、構図だけの点に関しては、こちらの作品の方が雪が左方に大きくのびた点で整っている。PLフィルターを使用している。そのため色調に濁りが出て、朝の光のさわやかさが減じた。惜しいと思う。さらに左方を少し切る、というより、カメラアングルを右に向けて、富士山の左裾を少し短くした方がより整ってくる。本年も氏はダブル入選を果たしているが、これも熱意と精進がもたらした結果である。
入選 八巻 長子 姥子山 静寂 山梨県中央市  
 やわらかく美しく、いかにも女性的な富士山である。紅(くれない)色の中間調がよくのびているので硬さがなく、それに長時間露光(データでは4分の1秒となっているが実際にはもっと長いではないか。雲の動きでわかる。)効果が加わっての調子である。惜しいことに富士山頂が画面中心線に位置しているので、これを左右どちらかに寄せる必要があった。他の姥子山からの作品が4点しか無かったため有利となったが、いつもそうはいかない。テーマモチーフを画面中心線に置くというクセを一日も早く匡正することが大切。
入選 谷口 一只 牛奥ノ
雁ヶ腹摺山
晩秋の朝 埼玉県加須市  
 6点しかない牛奥ノ雁ヶ腹摺山の作品中、もっとも色調もよく構図も整っていた。作者は過去何回か応募しているが、いつも惜しいところで入選を逸していた。この条件的にあまり良好といえない2番山頂でこれだけの作品を出品できたのは不断の努力が実を結んだとはいえ、今後はさらに期待できそうである。一番手前の影だけが不要であるが、光の当たった部分の色彩は美しく、新雪がなく、そのためあまりにもコントラストがなく冴えない富士山が手前の紅葉の鮮やかさによって生かされいる。
入選 村上 敏幸 小金沢山 紅葉と初冠雪 山梨県大月市  
 小金沢山も牛奥ノ雁ヶ腹摺山同様、前景とする岩塊も、紅葉する樹種も少ないので、まことに撮りにくい。そのためか、今回はこの村上氏の一点だけの応募であり、自動的に入選となった。といって、作品的に劣るものを入選させることは極力避けるので、一応のレベルに達していることになる。欲をいえば(出来得れば)、カメラポジションをもっと右に寄せて、紅葉の葉むらをもっと大きく、そして左方に移す方がよかった。左方の黒い空間がそれで埋まり構図が整ってくる。
入選 津 秀俊 大蔵高丸 静寂の中に 山梨県大月市  
 よく整った美しい画調の作品である。このところ、選者が雪の大蔵高丸の作品を発表してから、とみにこのポジションからの富士山が増えた。今回もこの3番山頂からの作品が31点と多く、38点の雁ヶ腹摺山に次いでいる。ピントもよく、調子もよく、31点中では第一の作品であったが、残念なことに上位6点に比較して力不足の感が否めない。それは雪の積もったササ原が、もっとも手前にあって、構図上、全体を平板的に弱くしているからである。ただし、これももっと近寄って質量の逆転を図り、手前を強くすればその限りではない。
入選 夏目 政俊 ハマイバ ミツバツツジ咲く 愛知県豊橋市  
 典型的な「いの字」「この字」構図での作画であり、安定した画面となっている。手前左に大きく入れ込んだトウゴクミツバツツジの花むらで画面の2分の1を埋め、残りの右上半部に残雪の富士を持って行く形は、見慣れてはいても、やはり一番安心して見ることができるものだ。ツツジの花色は正常な発色であるが、富士山が少し露光オーバー気味で調子が弱い。おなじRPプリントでも一段高級なクリスタル紙を使用すると、こうしたところも是されて有利となる。
入選 帯金 晃 滝子山 早春の空高く 静岡県沼津市  
こうした場合の「・・・空高く」は、空高く雲がたな引く、という意味と、早春の空が高く展けている、というふたつの意味を持つ。作者の最初の題名は「早春の空に」であり、これでは、空高く雲が浮いている、という意味しかなく、富士山が忘れられている。それにこうした題名は日中の青と白の世界の中でいうことであり、富士山がまだ色づいている時間帯には使わない。富士山を下方に、雲を入れた空を大きく入れて作図したが、これでもまだ空が軽すぎて、上下のバランスが悪く、下方が重くなっている。
入選 瀬沼 茂雄 笹子雁ヶ腹摺山 紅葉と新雪 山梨県中巨摩郡
玉穂町
 
 笹子雁ヶ腹摺山の応募作品5点、その中から1点が推薦に入ったため、残り4点が候補となり、この作品と決定した。題名も最初は「初冬の紅葉」であったが、それでは適当でないので上記に変えた。フィルム(フォルティア)の発色特性のせいか、異常にコントラストが強く、紅葉の色が背景に融け込んで暗い点が不満であったが、きちんと引き伸ばせば大丈夫と思われる。全体として少々窮屈な構図であり、ゆとりが感じられない点が今後の課題となろう。氏の入選は久しぶりなので、今後はずっと継続させてほしい。
入選 桜井 良樹 奈良倉山 晩秋の空富士高し 東京都青梅市  
 氏は初応募で初入選である。奈良倉山はアプローチは良いが、富士山との距離が遠いので意外とまとめにくいきらいがある。この作品はホースマンVHで、210ミリレンズとあるが、フィルムサイズの記入がない。6×9判としても、実際より大写しとなっているので、そうしたところに疑問を呈しないよう、すべてをハッキリ明記して欲しい。朝の大気の中に浮かぶ富士山はキリッとした崩れのない雰囲気を保って明けて行く。調子、色調は及第、構図のみ、少し余裕がありすぎるのを考えたい。
入選 大戸康世 扇山 黎明 山梨県大月市  
 落ちついた雰囲気、山々の重なりの合間に市街地が見えないのが成功への元であろう。ただ、データの撮影日が1月なのか11月なのか、線が2本になっているので判然としない。富士山の積雪の状態で多分1月のものと思われる。柔らかさを表現するのにはこの露光値でよいと思うが、やはり富士山の色づきが露光オーバーとなって、ちょっと気のぬけた赤であること、それとやはり「お子様お絵描き」の中心線上の富士山になってしまった。もう少し、右を切って左へのばすことが必要であろう。
入選 宮地 広之 百蔵山 桜咲くかなたに 東京都世田谷区  
 右上部から下部一面にサクラの花を配し、左奥に富士山を置く手法は手慣れたものといえるが、出来得れば、もう少しサクラの花むらが密であり、富士山までしっかりとピントが合ったものが欲しかったが、今年の百蔵山の部にはそれに見合う作品がなかった。百蔵山々麓のサクラは若干多くなっているが、山頂付近のサクラは年々衰えていることを思えば、これでも良しとしなければならないかも知れない。市当局の観光施策をもう少し地域振興に寄与するよう考えてもらわないと、百蔵山が駄目になってしまう。
入選 長谷川政雄 岩殿山 岩殿の春 山梨県大月市  
 このところ岩殿山のサクラも老齢化して、年々花が少なくなっていると聞くが、この作品はあまりそのようには見えない。やはり地元作家の強味であろうか。最適のシーズンを狙ってのものであろう。天候も快晴、春というには硬調でちょっと強すぎる感じさえある。16点という、これまでにない多数の応募だったが、やはりアプローチの便利さが有利に働いただけのことか、この作品のほか、推薦は別として、あまり見るべき作品がなかったのは残念であった。
入選 愛澤 和弘 高畑山 夕べの競演 埼玉県所沢市  
 どうしたわけか、高畑山の作品は朝と日中のものが少なく、いつも夕方の光景ばかり集まってくる。選者が最初に夕景を発表したせいでもなかろうが、もし、そうしたことが影響しているのなら改めてもらいたいものだ。だが、この作品は夕方の光景ではあっても雲間をもれる光芒が生きて、なかなかの感じを出している。締切日ぎりぎりの撮影での駆け込み応募ではあるが、それが初入選となったのは苦労した甲斐があった。やはりクリスタル印画に仕上げたら、もっと状況を忠実に表現できたろう。
入選 松本 邦弘 倉岳山 夕べの雲映える 埼玉県入間市  
 この題名も「夕雲(ゆうぐも)映える」が元の題名だったが、夕雲は上記のようには読まない。「せきうん」となるので感じが出ないので選者の方で変更した。思い切ってのアップで大きく表現したが、少々メリハリが欠けてしまったのは、やはり印画選択のせいで、これまたクリスタル印画であったらもっと調子は美しく仕上がったと考える。構図上はさして難がないが、自分の作品の価値をぎりぎりまで絞り出すための手段も考えに入れた方がよいと思う。だが、ここからの日没後の下山は大変だったろうと同情をする。
入選 北沢 清行 九鬼山 荘厳なる夜明け 長野県松本市  
 富士山にはやはり雪がついていないと感じが出ない。最近は降雪が少なく、それも時期が遅れて降るので根雪が付きにくく、おまけに強風で飛ばされて山肌があらわに見える。この作品は珍しく充分の積雪があって、いかにも富士山らしい感じが濃い。九鬼山は最近、手前の植林の梢や枝がのびて、なかなか撮りにくいが、それにしてもこの作品はうまくカバーしている。左下方の伐採地が少々気になるがこれは致し方あるまい。堂々として、しかも美しく焼けた富士に乾杯!
入選 纐纈 浩恭 高川山 湧雲上に高く 岐阜県
多治見市
 
 「湧雲・・・」という形容にちょっと首をかしげるのは、雲の形状が湧き昇るといったものでなく、安定してしまっているからである。いっそのこと、この雲が、画面の下部全体を覆ってくれたら、もっとすばらしい作品になっただろうと思う。そうすると左下方の演習地も消え、富士本来のすばらしさが表出されたろう。だが、光の当たった右半面と右上隅の雲をうまく生かして、富士山頂を左に寄せた手法は安定したもので、作者の不断の精進がもたらしたものといえる。撮りにくい高川山の午後の富士をよく撮りこなしたといえる。
入選 中川 仁志 本社ヶ丸 色づきし雲の彼方に 静岡県
富士市
 
 朝の色づいた雲の中に、邪魔になる山々をうまく隠した単純化はなかなかのものである。普段は富士の前景に三ツ峠山の一部が写りこんでなんとなくうるさいのが、こうなると実にすっきりしている。たしか初応募で初入選だったと思うが、この調子でぜひ応募を続けてもらいたいものだ。難を言えば、構図上の単純化に加えて、もう少し画面に無駄のないよう、トリミングの必要がある。左方と上部が少し甘いのを切り捨てることによって、この作品はさらに上位に進んだと思う。
入選 纐纈 麻實 清八山 朝まだき清八の富士 岐阜県
多治見市
 
 夜明け直後の浅黄の空に富士山ひとつ、何ものにもさえぎられず、突兀として聳えている。まさしく典型的に単純化された富士であり、三角構図そのままである。もともと富士山をはじめとして、山岳は三角構図を原型としてのバリエーションであるが、これまでの単純化はなかなかとり難い。それには早朝の大気の色づきが大きくあずかっていて、その微妙な変化が単なる単純化でなくしているのである。女性、と言っては失礼だが、これだけ大きい表現はなかなかにとれるものではない。やはり、無心無欲がもたらした結果と思う。